熟成肉の話 @肉料理とワイン 遊山

はじめに

食べ物ブログ、今回は焼肉へ。と言ってもただの焼肉ではありません。

「熟成肉」

お肉をより美味しく食す方法として古くから用いられてきた技法。今回はそんな熟成肉専門店でお肉をご馳走になったので、そのレポートをお届けします。

熟成?発酵?腐敗?

食品は一定環境下で一定期間放置することで変化が起こる。人間はこの現象を利用して食品を生み出したり、よりおいしく変化させたりと様々行っている。これを「発酵」や「熟成」と呼ばれているのだが、見方を変えればこれらは食品を「腐敗」させているわけだ。

では「発酵」と「腐敗」の違いはなんだろうか。

答えは人間に害があるかないかだ。

どちらも微生物の力で物質が変化することであるが、明確な違いは人間に害があるかないか。要はお腹を下すか下さないか。食って死ぬか死なないか。そこにある。

なんとも人間本位な定義だなって思います。

発酵食品には納豆やヨーグルトなんかがある。昨今の発酵食品ブームを支えている微生物さん達に感謝です。

 

続いて「発酵」と「熟成」の違い

こちらは外部の微生物が関与しているか、または自身の酵素で物質を化学変化させているかで変わるようだ。

微生物の力で変化しているのは発酵」

自身の酵素で変化させているのが「熟成」

となっている。

熟成とは

では自身の酵素での化学変化とは、具体的にどのような変化が起きているのか。

熟成においては主に2つの物質が変化しており、

1つはタンパク質

1つは糖質

である

 

タンパク質はタンパク質分解酵素であるプロテアーゼが肉のタンパク質を分解し、うまみや香り成分を多く持ったアミノ酸に変化し、熟成が進んでいく。また、プロテアーゼは筋繊維の結合も弱くするため、お肉が柔らかくなるという変化も起きる。

ちなみに、アミノ酸はその種類によって変化する味に違いがあり、

 

うまみ成分は「グルタミン酸」や「アスパラギン酸」

甘味成分は「グリシン」や「アラニン」

苦味成分は「バリン」や「ロイシン」

 

などであり、これらの配合具合で味が変化する。

そして糖質は、筋肉中にあるグリコーゲンが分解酵素「グリコーゲンホスホリラーゼ」の働きによってグルコース(糖)に変わる。

筋肉中には人間と同じようにエネルギー源になるATPが存在している。グリコーゲンが分解される過程で乳酸が発生し、この乳酸がp Hを低下させ、p Hが低下するとATPの分解酵素が活性化されADPとリン酸が生成される。この過程で人間の運動と同じように熱と筋収縮が起こり、これが死後硬直で、肉が硬くなるようだ。

しかし、約24時間を最大値として肉は徐々に軟化していく。したがって少し熟成させてからいただく方が柔らかいというわけだ。

 

まあよくわからない人は、とりあえず腐るとおいしくなると思っておいてください。

 

熟成方法

熟成の仕組みがわかったところで、熟成の方法を見ていこう

 

熟成の方法は主に3つ

・ドライエイジング

・ウエットエイジング

・枯らし熟成

 

⭐︎ドライエイジング

 肉を骨付き、塊のまま温度管理された冷蔵庫で風を循環させながら2週間〜2ヶ月乾燥熟成させる方法。

 赤身の多いアンガスビーフなどに適した方法で、ナッツのような香ばしい香りと、柔らかい肉質を味わえる。

⭐︎ウエットエイジング

 部位ごとに小分けにされた肉を真空パックにいれ、温度管理された冷蔵庫で1〜2週間熟成させる方法。

 元々輸送の際に利用されていた方法で、他の熟成方法に比べて旨味や香りが若干劣るものの、管理が容易という特徴がある。

 

⭐︎枯らし熟成

 日本古来からある方法で、庫内で枝肉(四肢と内臓、皮を剥いだ状態)のまま吊るし、1ヶ月ほど熟成させる方法。

 長期熟成させるため水分が均一に抜け、旨味も凝縮するため味は良いものの、表面のカビなどをトリミングする際に無駄が多く、歩留まりが悪くなるため、現在はあまり用いられていないようだ。

 

遊山

さて本題。今回のお店は大阪の中央区にある遊山

マスターは元々病院の院内食のコックを勤められており、こだわって作っていた料理が患者に大好評だったことが、料理人になったきっかけだったとか。

 

店内に入ると、早速ショーウィンドーに並べられた熟成肉がお出迎え

近江牛 ランプ・イチボ 骨付き熟成
短角牛 Lボーン サーロイン
鹿児島 黒毛和牛 ミスジ 経産牛

まずはゴールドラッシュで作られたコーンスープ。とうもろこし以外は塩と水しか用いておらず、ゴールドラッシュの甘味や香りを直で感じられた。

肉料理専門店だが、これが割りとお気に入りだった。

 

続いて前菜

和牛もも肉カルパッチョ。

鹿児島産もも肉。玉ねぎは土壌に納豆菌を入れて育てた納豆菌玉ねぎ。心なしか納豆の香り(多分気のせい)

もも肉は薄切りで、口に入れた瞬間とろける美味しさ。

 

オードブル。牛肉のテリーヌ 肉は牛肉100%

 

さて前菜からとっても豪華ですが、本題はここから。

焼肉の時間ですよ

ちなみにロースターは炭。香りはもちろん、遠赤外線の効果で中まで日が通りやすいのが特徴。

 

まずはタン。

オーストラリアの草原で育った和牛

薄切りはもちろん、厚切りも不快感は一切なく、噛むとタンの柔らかい食感と甘味が口の中に広がります

続いて盛り合わせ。

ローズマリーより上は熟成肉。

市場に出回る牛は普通、産後2〜3歳の牛が多いそうだが、この肉は経産牛と言い、出産を経験した13歳の年寄りの牛。

そのお肉をドライエイジングで3週間熟成。かなり香ばしい匂いが印象に残っている。

下は和牛。左から

もも肉・中落ち・ひうち

となっている。

 

そしてメインのLボーンステーキ。

Lボーンはサーロインのお尻側の部分のお肉。Tボーンと比べ、ヒレ肉が少ないのが特徴。肉の部位の話はまた焼肉に行った際に取り上げますので、今回は定義だけ覚えといてください

こちらは40日ドライエイジングの短角牛。北海道大学が研究も兼ねて育てた牛で、放牧牛。100%その辺の草しか食べていない珍しい個体。

サシの融点低すぎて、ロースターの脇においているだけで溶けてます・・・w

絵面である。焼肉食べ放題でもなかなか見ない無茶苦茶ぶりである(褒めてる)

マスターが綺麗に焼いてくれます

 

和了。

説明不要の美味しさ。というより香ばしさ。

熟成による香りで、今まで食べたことのない、表現しようのない美味しさ。ぶっちゃけ何も言われず出されたらまず牛肉だとはわからないだろう。熟成ってすげー。

骨までしゃぶってご馳走様。

 

まとめ

 本格的な熟成肉を食べるのは初めてのことで、衝撃と感動でいっぱいだった。今まで「熟成」と謳っていたものは輸送の際に時間がかかってしまっただけのものが多かったこともわかった。

この本物の味は、マスターが産地、エサ、個体、そして熟成方法と全て一貫してこだわっているからこそなせるものであると感じた。

このような経験をさせていただき、本当に感謝である。

 

 また、自分は飲めないのでわからないものの、ワインも良いものをおいているそう。

本物を食べたいそこのあなた!是非一度足を運んでみてください。

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